フランス料理とバカボンパパ

 わたしが子どもの頃、日本で洋を代表する料理といえば、フランス料理であった。


 普通のサラリーマンの家庭で育ち、ガキの時分に本格的なフランス料理の店に行ったことはない。


 それでも、洋を代表する料理といえば、フランス料理だった。


 実際、当時は高級レストランの多くがフランス料理だったのだと思う。


 しかし、野っ原を青っ洟垂らして「ウンコ、チッコ、バヒュ〜ン」と叫びながら走り回り、脚をちぎったバッタを川に流して「こやつの子孫は水生バッタに進化するのだ」と進化論の証明に燃えていたガキが(我ながら過激だな)、なぜ「洋を代表する料理といえば、フランス料理」などと思っていたのだろうか。


 まあ、目にするもの、耳にするものから何となくそう刷り込まれたのだろうが、特に天才バカボンからの影響が大きかったように思う。


 天才バカボンには時々、高級レストランが登場した。
 そうして、それは必ずフランス料理で、気取ったボーイ(ギャルソンなどとは呼ばなかったと思う)に、バカボン・パパが必ずレバニラ炒めを注文するのだ。


 前後の成り行きは全然覚えていないが、そういうところだけはよく覚えている。
 育ち盛りの子供心に天才バカボンの影響は大きく、わたしなぞ、今でも打ち合わせで反射的に「国会で青島幸男が決めたのか?!」とコーフンして、次から打ち合わせに呼ばれなくなってしまうくらいである。


 というわけで、当時、洋を代表する料理が何だったかといえば、フランス料理だったのだ。
 理由は、当時のガキにとって、主に天才バカボンからの影響であり、これでいいのだ。