高校生のときのことだ。
深夜に目が覚めた。
仰向けに寝ていたのだが、そのままの体勢で体がすーっと浮かび上がった。
金縛りにあったようで、体をコントロールできない。「わ、わ、何だ、何だ?!」と焦った。
1メートル以上浮かんだところで止まり、今度は水平移動を始めた。
私は二階に寝ていて、部屋を出たところが階段になっている。
部屋の引き戸が開き、私の体は仰向けに浮かんだまま、階段のほうへと移動していった。
階段の手前で方向転換し、浮かびながら、ゆっくりと階段を降りていった。
一階には両親が寝ていた。
異常事態に見舞われると、人間は妙なことを考えるらしい。私は、そのとき、こんなことを思った。
「親にこんな姿を見られたら、マズい」
階段を下降しつつ、ヤバい、ヤバい、と慌てた。しかし、体は言うことをきかない。
階段の途中まで来ると、一瞬、止まり、今度は逆に昇っていった。そのときの混乱しながらも、どこかホッとした感覚を、今でも覚えている。
体はさっきとは逆の軌跡をたどり、階段手前で方向転換し、部屋に入り、蒲団の上まで来ると、ゆっくりと下降していった。
汗ぐっしょりになっていた。
夢でも見てたんだろ、と思うかもしれない。
しかし、その後、あまりの怖さに眠れず、朝までずっと起きていた。だから、夢ではない。
翌朝、朝食の場で、家族に話せなかった。
あまりに異常で生々しい体験だったため、高校時代には、家族だけでなく、誰にも話さなかった。
