酔って候

 時々、ふと思いついたことがあると、ノートにメモしておく。そうして、後日、この日記に書く。


 そういう意味では、この日記は全然「日」の「記録」ではない。
 が、私の「日」の「記録」を書いたところで、起きて、飯食って、ウンコして、日記書いて、仕事して、サボって、焦って、でも昼寝して、起きたら夕方で、ビビって、泣きながら仕事して、面倒くさくなって、風呂入って、酒飲んで、お祈りして、寝る、ということの繰り返しだから、書いてもしょうがないのだ。


 思いつきのメモを見直して、「何を考えて、こんな言葉書いたんだっけ?」と、自分でもわからなくなることがある。
 今、ぱっとメモを見ると、「受話器の臭い消し」と書いてある。うーむ。よくわからん。


 中島らもは、朝起きたら、メモに一言、「冷蔵庫」と書いてあったそうだ。前の晩、ヨッパラっているうちに、冷蔵庫についての素晴らしい思想が展開されたのだろう。
「受話器の臭い消し」対「冷蔵庫」。冷蔵庫の圧勝だ。才能の段違い平行棒というものだろう。


 この、ヨッパラってグレートな思想が展開される、という現象は、私もしばしば体験する。
 ただ、惜しいことに、グレートなのはたいてい、ヨッパラっているうちだけである。翌朝、メモを見直してみると、稚拙だったり、破綻していたり、オヤジギャグ・センス炸裂だったり、意味不明だったりする。


 ここに、何日か前に、ヨッパラって記したメモを転記する。
 メモにしては、やや長い。読むのに難渋する文字もある。ただでさえ字が下手くそなうえ、ヨッパラって、ボールペンを持つ手がヘゴヘゴだったからだ。


感情との戦い。
うわ、おれの怒りが出てきやがった
チキショー、てめえ
勝手に〜なんだろ〜。
うわ、今度はおれの
悲しみが
ウオーあっちいけシッシッ!
ひゃあ、おれの笑い
が!
おれの憎しみ
グリーンのビラビラ、
あっち行け、


 ここで終わっている。


 読んだ方は困ったろう。私も困っている。


 ヨッパラって、ひとりで大いに盛り上がっていたことはわかる。
 私は、たまにひとり酒盛り状態になることがあって、「さ、さ、ま、おひとつ、ドーゾ、ドーゾ」、「いや、これはこれは。オットット」などと、ひとりで大いに盛り上がる。
 これを書いたときも、それに近い状態だったのだろう。しかも、相当、派手にヨッパラっていたようだ。


 しかし、これをどう活かそうと考えていたのかは、今となっては異次元に消えてしまって、わからない。
 詩でもなく、雑文になるわけでもなく、文字からある種のコーフンだけが伝わってくる。


 禁酒すべきか。