世間様の片隅でのたくっている私が「仕事の誇り」について語るのもチャンチャラおかしいのだが、まあ、今まで見聞きしてきたものの中から、思いつくことをタラタラ書いてみたい。
まず、免罪符として私自身について書いておくと、誇りというものをあまり感じない性分らしい。
自分についてこれこれを自慢したい、というイヤラしい衝動が起こることはあるけれども、どうも、それは誇りとちょっと違うように思う。
最近、なんだかんだとやかましい、「自分の国に対する誇り」だのなんだの、というのはあまり感じたことがない(戦後教育の失敗とかなんとか、キューダンされるのカネ?)。別に日本人であることを嫌とも思わないけれども。
家族や生まれ故郷についても、特に誇りというほどのものを感じたことはない。
だから、他人を観察しての考えしか言えないのだけれども、仕事の誇りには二種類あるらしい。
ひとつは、自分の技術や能力、挙げた成果についての誇りだ。
タモリがウケた後、若手芸人に向かって自分の腕をポーンと叩き、「盗めよ」と言うことがある。
もちろん、タモリは職人気質のパロディをやっているのだが、このポーンの意味はわかる。自分の技術・センスについての誇りだろう。
一方で、こういうのもある。
江戸落語に、よく火消しのいろは四十八組というのが出てくる(どういうわけか、毎回、め組のカシラしか出てこないが)。
あれは、どうやら、鳶職を中心に組織された集団だったらしい。生業ではなく、普段はメンバーそれぞれが自分の仕事を持っている。今で言えば、消防署ではなく、消防団に近いかもしれない。
ただし、一種の職業意識はあったのかもしれない。
志ん朝の「お若伊之助」の中で、金を猫ババしたと疑われたカシラがこんな啖呵を切る。
冗談言っちゃいけませんよ! あっしはね、長えものを短っかに着ている稼業だ。半鐘がひとつジャーンとぶつかりゃあ、火の海ン中に飛び込んでいく。人のために体張ってンだい。命懸けで仕事をしてるンですよ。そんなサモしい了見は、これっぱかりだって、あっしは持ち合わせちゃいませんよ!
カッコいいね、鯔背(いなせ)だね。
これは、さっき書いた誇りとはちょっと違うように思う。
さっきの「ポーン」のほうなら、自分が火事場でどれだけ上手く立ち回れるかを誇るはずだ。しかし、カシラがここで言っているのは「人のために体張ってンだい。命懸けで仕事をしてるンですよ」だ。
ここにあるのは、人、町内、世の中のために働いているという誇りだろう。
自分の技術や能力、挙げた成果についての誇りと、人や世の中の役に立っているという誇り。仕事の誇りには二種類あるらしい。
ひつっこく行くが、ここ数日来一方的にやっつけてきた、グリーンのビラビラを作っている人々(なぜ一方的かというと、敵はやっつけられていることすら知らないからだ)。
彼ら・彼女らは、前者の誇りは抱けるけれども、後者の誇りは抱きにくいんじゃないか。しょせん、グリーンのビラビラだから。
が、まあ、グリーンのビラビラ方面の人々に限らず、自分の仕事に誇りを持てる人、というのは、どちらかというと少数派だろう。
特に、働き始めてすぐ「誇りを持てる仕事に出会えた!」と感じられる人は、たぶん、非常に少ない。
誇りを感じられる仕事かと思って入ってみたら、内情は全然違った、なんてこともある。
ウロ覚えなので、多少間違っているかもしれないが、談志が求職者に向けて、以前、こんなようなことを言っていた。
最初から面白い仕事にぶつかれる、なんてことはあんまりない。ただ、やっているうちにちょっと面白いところが見つかってくる。そしたら、それを広げていけばいい。外から見ていてもわからない面白さというのもある。就職する前にあんまり考えすぎるより、まずは働きだしたほうがいいんじゃないか。
そうかもな、と思う。
一方、中島らもは、いしいしんじとの対談で、自分のサラリーマン時代を思い返して、こんなことを言っている(「その辺の問題」(中島らも・いしいしんじ、角川文庫))
――僕、ストレスってよくわからないんです。何なんですか、あれは。
あれはな、全身で、真剣に会社を受けとめようとするから、身体からだにくるの。会社に勤めるっていうのは、“会社ごっこ”くらいに思ってたらいいの。
――ただ、ごっこも、本気でのめり込んだら同じでしょう。
そうやな。田舎に飛ばされても、「わちゃあ」くらいに笑えるスタンスの軽い人なら、ええねんけど。
そういう手もあるなあ、と思う。
「誇り」について書き始めたのに、「面白さ」、「やり過ごし方」の話になってしまった。
結局、自分の身の丈に合った話しかできない、ということなのかもしれない。
まあ、無理に仕事に「誇り」を持とうとするよりも、「面白さ」か「やり過ごす」かどっちかで行ったほうが、うまく行くような気もする。
「誇り」とは、放し飼いのチンコロ。後から勝手についてくるもののようにも思うし。