しょわせる

 重機器メーカーのコマツヤンキース松井秀喜を使った企業広告を出している。


 メインコピーは「松井が打つと、日本が笑う。」。


 ボディコピーでは、メジャーリーグに挑戦してからの松井の歩みを振り返っている。
 そして、こんな文を差し挟む。


その一歩一歩を、日本人みんなが、見ていた。


 嘘つけ。


 少なくとも私は、松井の一歩一歩を見てはいない。たまたまテレビニュースのスポーツコーナーに出てきたとき、見るくらいだ。彼の昨シーズンについても、よく知らない。
 もうすぐ3歳と1歳になる私の姪も、たぶん、見ていないと思うぞ。上の姪は歌い踊るのに忙しく、下の姪はそこらへんを這いずり回るのに忙しくて。


 どうしてこう簡単に「日本人みんなが」なんて、書くかね。


 もちろん、調査はしていないけれども、せいぜい、


その一歩一歩を、日本人の三割程度が、見ていた。


 くらいがいい線じゃないか。知らんけど。


 松井自身については、特に好きでも嫌いでもない。ホームランの打球を見ると「凄えなあ」と思うが、その「凄えなあ」はボンズやA.ロドリゲスを見て感じる「凄えなあ」と変わらない。まあ、あの構えたときの集中する感じは好きかな。


 松井本人に日本を背負っている意識があるのかないのかは知らないが、彼やイチローに日本や日本人をしょわせる行為は好きになれない。「虎の威を借る」という言葉を思い起こす。


 松井も私も日本人だが、“同じ”日本人のわけがないじゃないか。あんな凄い人と、やくたいもないことをカタカタとキーボードで打っている、この馬鹿が。全然“違う”日本人ですよ、あの人のレベルは。


 まあ、私の生計のもとになっているコピー書きの仕事には、「誇張屋」、「プロの嘘つき」という面がある。
 しかし、私自身は、こういう「日本人みんなが」の類のコピーを書かない。書け、と言われたら、その仕事を断ると思う。そのくらいの決めごとは、自分の中に持っている。


 私は、たまたま生まれてみたら、日本にいた。育っていくうちに、見るもの、聞くものの中から、日本人のしがちな考え方や感じ方、行動の仕方のパターンを覚えていった。自分でもそういうパターンをなぞるようになっていった。
 おおよそ、それだけのことだと考えている。


 話は変わるが、最近の日本人メジャーリーガーについてのニュースは、何打数何安打何打点、何回を投げて何安打何失点と、ほとんど、ゴルフの結果みたいになってきた。確か、野球はチームスポーツだったと思うが……。
 まあ、これについては、日本人メジャーリーガーが増えたうえに、ニュースの時間や新聞の紙面が限られているから、ある程度、仕方がないのかもしれない。


 昨年のイチローはちょっと別だろうけれども。シーズン途中から、マリナーズはぶっちぎりの最下位で、チーム成績なんてどうでもよくなったみたいだし。


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