嘘つきは嘘をつかない

 今日はエイプリル・フールなのだが、だからといって、わざわざ嘘を書くのも正直すぎる。
 なので、今日は嘘をつかないことにした。


「嘘つきは泥棒の始まり」というが、あのセリフを最初に言ったのは石川五右衛門だそうだ。少なくとも、講談ではそうなっている。
 何という話だったかは忘れたが、五右衛門が京の鴨川の河原で握り飯を恵んだ孤児に、正直な行商人を装って、そんな説教をするのだ。軽い笑いの中に、五右衛門の悔恨や諦念が表れている、いい話である。


 後に、五右衛門が公開で釜茹での刑になったとき、成長した孤児が見に来る。あの行商人が実は石川五右衛門だったと知って、青年は叫ぶ。
「あなたは嘘つきだけど、悪い人じゃない!」
 人垣のどこかから聞こえてきた声に、五右衛門は豪毅に笑って、こう答える。
「泥棒だけどな」
 その後で、秀吉に向かって五右衛門が「おれは天下の大泥棒だが、お前は天下を盗んだ」と毒づく。さらに、「石川や浜の真砂は尽きるとも〜」というあの有名な辞世に続ける。


 よくできた話だと思う。


 なお、五右衛門を茹でた釜の湯は、あらかじめ昆布でダシを取ってあったという話もあるが、真偽のほどはつまびらかでない。


 4月1日をエイプリル・フール、「嘘をついてもよい日」としたのは、アメリカ合衆国の初代大統領ジョージ・ワシントンだそうだ。
 少年の頃から斧をブンブン振り回しながら正直を続けてきて、さすがに365日、嘘をつかないでいるのに疲れたのかもしれない。


 ちなみに、俳優のデンゼル・ワシントンは、先祖を何代もさかのぼっていくと、ジョージ・ワシントンと血がつながっているらしい。
 私とデンゼルは遠い親戚だから、私とジョージ・ワシントンもどこかで血がつながっていることになる。


 いや、これは本当だ――と書くと、まるで今までの話が嘘のようだが――ミトコンドリアとかいうものの遺伝子を調べると、どうやらそういうことになるらしい。
 興味のある方は、「ミトコンドリア・イヴ」とインターネットで検索をかけてみてください。


 まあ、そんなことを言い出すと、私とそこらへんに生えているペンペン草も、数十億年前の時点で血がつながっている、なんてことになりかねないけれども(ペンペン草に血は流れていないが、比喩です、比喩)。


 しかし、今日は話が飛び飛びだな。石川五右衛門から数十億年前の遺伝子まで。まあ、いいや。