人類、北上す

 以前から私には理解できないことがある。


“人はなぜ長期休暇になると、南国へ行きたがるのか?”


 正月だ、ゴールデンウィークだ、夏休みだ、となると、日本の多くの人が、ハワイだ、グアムだ、バリだ、プーケットだ、と南国へ向かう。
 フランス人はヴァカンスで南仏へ向かう(南仏の人々はヴァカンスにどこへ行くのだろう?)。
 お気楽系のハリウッド映画では、主人公が一攫千金に成功すると、フロリダだの、カリブの島々だのに向かう。


 私には理解できない。


“だって、暑いではないか?”


 私は摂氏15度から24度の間でしか適応できず、きわめて飼育の難しい動物とされている。ちょっと世話を怠っただけで、大量に水に浮かぶのだ。ワシントン条約で保護されるのも間近らしい。


 そんなわけで、なぜわざわざ暑いところへ行くのか、理解できないのだ。過ごしやすい温度というものがあるでしょうが、エッ!?


 と、詰め寄ることもないのだが、暑いのが好きなら、ドテラを重ね着して、鍋焼きうどんをフーフー食べればいいではないか。


 風の噂に聞いた学問的な話をすると、人類の祖先は昔々、アフリカに住んでいたらしい。


 アフリカと言っても広うござんす。高地は涼しいだろう。しかし、まあ、よく知らんが、暑いところにいたんではないか。


 で、そこから何百万年かけて、世界中にわーっと散らばっていったわけだ。
 一部は、南アフリカ方面へと下っていったろうが、あそこはどん詰まりだ。


 一方、北へ向かった人々は、広大な地域を前にした。
 そうして、お互い、蹴ったり、殴ったり、逃げたり、コケたり、パンツが脱げたり、抱き合ったりしながら、ずんずん進んでいった。


 南アジアから東南アジア、太平洋の島々へ、というルートもあったろうが、大方の人々は北、北東、と寒い方面へ向かったようだ。
 狩りをして毛皮を手に入れ、羊をだまくらかして手なずけ、綿花の種を蒔き、低温にも耐えられるようにさまざまな衣服を工夫し、火鉢、炬燵、湯たんぽ、鍋焼きうどんなどを発明しつつ、北へと向かった。


 そうして、北限のサルとなった。


 それがなぜまた南へ戻るのか? どうして再び暑いところへ戻りたがるのか? いろいろな工夫を重ね、蹴り合い、殴り合い、逃げ、コケ、パンツが脱げ、抱き合ってきたご先祖様に申し訳ないと思わないのか?


 どうにも私には理解できぬのだ。


 ……と、書きながら、私には“実はこういう理由ではないか”と睨んでいることがある。


“人は南国でパーになりたがる”


 これである。


 南国の人々がパーという意味ではないよ。彼らには、そこでの生活というものがあり、働かなければならない。パーではいられない。


 しかし、あの、リゾートとかいうタワケた言葉に浮かれ踊っている人々の顔は、テレビや写真で見る限り、たいてい、パーだ。
 ビーチとかいう砂場に寝そべったり、青い色をした甘ったるそうなカクテルを飲んだり、水をかけっこしたり、「待てー、あゆみー」、「アハハ、ここまで来てごらんなさーい」などといい年して追いかけっこしたり、女性の水着姿を目で追っているうちにしかるべき人体の機能によってうつぶせにならなければいけなくなったり、全くもって、ゆ、許せん。


 諸般の事情により、一生、南国とは無縁の私に、それくらいは言わせていただきたい。クソッ。


▲一番上の日記へ