邦題

 すでに20年以上前から指摘されていることだが、最近の洋画は英語のタイトルをそのままカタカナ表記することが多い。
 20年以上前から指摘されているようでは、全然、最近の話ではないが。


 オールド映画ファンには、「昔の邦題はよかったものだ」と懐かしむ人もいるようだ。


 「会議は踊る」とか、「北北西に進路を取れ」とか、「俺たちに明日はない」とか、「青い体験」とか。最後のは、例によって私のあざとい手口だが。


 同じことは洋楽にも言えて、60〜70年代の英米のロックの曲やアルバムには、邦題がつくことが多かったようだ。
 しかし、名画と違って、洋楽のほうには、ソリャドウカネ、というものが多い。


 ビートルズの「Ticket to Ride」が「涙の乗車券」になった、なんていうのは、まだ可愛らしい。


 ひどいのは、プログレである。
 ピンク・フロイドの「Atom, Heart, Mother」が「原子心母」となった。直訳と言えば直訳だが、これは「げんしこころはは」とは読まない。「げんししんぼ」と読むのだ。
 四文字熟語、しかも意味の説明一切なし、というのをつくってしまった。丸谷才一先生、これについてはいかがお考えでしょうか。


 同じピンク・フロイドの「Wish You Were Here」は、ナイーブな内容を持つ、プログレにしては珍しくいいアルバムだったと記憶しているが(今、プログレファンを敵に回したな)、これが邦題では「炎」。ジャケットに炎をあげる人物の合成写真が使われていたところから来ている。
 が、ねえ。いい原題なのに、邦題のこのあまりに投げ遣りな付け方はないんじゃないかと思う。投げ遣りな私が言うのだから、相当ひどい。


 笑っちゃうのは、ELP(エマーソン、レイク&パーマー)の「Brain Salad Surgery」で、これは「恐怖の頭脳改革」となった。「頭脳改革」はまだいいとして、「恐怖の」はあまりに安直じゃないか。
 いっそ、「楽しい頭脳改革」とでもしたほうが、もっと怖くなったろうに。あ、「悲しい頭脳改革」というのもいいな。
 アルバムの内容自体はウロ覚えだが、あんまり怖いとか頭脳とか関係のない、「ああ、大仰なことやりたかったんですね」というものだったように思う。


 ヘヴィメタルにも、ひどいのがたくさんあったと思う。こっちのほうは、やたらと「悪魔の」、「死の」、「魔力の」、「刻印」などと、オドロオドロしい言葉が多かった。


 まあ、私にとっては忘れたい過去なので、これ以上は触れない。というか、脳味噌が都合よく記憶を封印してくれているので、あまり思い出せないのだ。


 ハイ。白状しますと、高校時代、若き血潮のゆえに、プログレヘヴィメタルにハマっていたことがありました。
 隠したい過去のひとつであります。ああ、恥ずかしい。


 と、書くと、プログレファンとともに、ヘヴィメタファンも敵に回すな。


 ハッハッハ。味方をつくるのは難しいけど、敵をつくるのはカンタンですね。
 えーっと、イエス最高! ELP最高! アイアンメイデン最高! おれの葬式にはジューダス・プリーストをBGMに使ってくれ!


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