喋る自販機

 最近の自販機はよく喋る。


 「〜を押してください」、「しばらくお待ちください」、「もう一度、やり直してください」、「操作が間違っています」、「もう一度、やり直してください」、「いい加減にしてください」、「ふざけているんですか」、「あなたは馬鹿ですか」、「それともデクノボーですか」、「人生、やり直してください」。


 そんなことは言わないが、まあ、よく喋る。


 順を追った機械操作というのが苦手な人がいる。オバサンや老人に多い。
 何を買うにしろ、ずっと人相手にやりとりしてきたのが、機械に変わって要領がわからず、困るのだろう。
 機械を操作してうまくいかなかった記憶が堆積していて、苦手意識、脳みそが止まる仕掛けができているのかもしれない。


 自販機の喋る機能は、そうした人への操作の補助の目的もあるのだと思う。
 しかし、券売機などが急に話し出して、かえってパニックに陥る人もいる。落ち着いていればわかるようなことも、頭の中が混乱して、できなくなってしまう。


 だからどうすべきだ、なんていうことは私にはわからない。というか、興味がない。
 人の、そういう混乱ぶりを面白く、意地悪く眺めているだけである。まあ、あえてアドバイスすれば、「まわりの人に訊けばいいんです」。これだけだ。


 ただ、私にも、喋る自販機で敬遠してしまうやつがある。
 某清涼飲料水メーカーの自販機で、スロットマシンみたいになっている。数が揃うと、もう一本もらえるのだが、どこかへ行く途中なんかだと2本持たされるとかえって困る。
 スロットが回っている最中、「ピピピピピピピ!」と驚くような大音量の電子音が鳴り響く。自意識過剰の私はまわりの目が気になって(まわりは大して気にしてないだろうが)、恥ずかしくなってくる。


 とどめがある。「もう一回、挑戦してや!」か何か忘れたが、関西弁でこの自販機が喋りやがるのだ。
 買うやつを面白がらせようという作戦なのだろうが、見事にハズしている。自販機にオヤジ・ギャグをカマされた気になる。


 なので、そのメーカーの自販機で買うのは避けている。
 関係者の方々、販売促進のつもりが逆効果になっていると思うので、やめたほうがいいと思いますよ。