名建築の抜け殻

 最近のCMに、名建築とされる家を使ったCMがふたつある。


 ひとつはシャープの液晶テレビのCMだ。吉永小百合が出ているやつ。シリーズで展開していて、これははっきり覚えている。
 もうひとつは、日産のティアナで、モダンリビングがどうたらこうたら、という能書きがついていたと思う。こちらは、あまり細かいところまで覚えていない。


 シャープの方のCMの狙いは、名建築とされるような空間にも馴染む、美しいデザインのテレビ、ということを訴えたいのだろう。


 CMの作り手の考えはわからないでもないが、「でもなあ、テレビを買う人は別に名建築に住んでいるわけじゃないしなあ」と思う。
 実際には、畳の部屋にタンスや石油ファンヒーター、コタツと一緒に置かれることも多いのだ。子供がいたら、キティちゃんだらけになったりもする。


 まあ、テレビなんて、買った人の部屋に合おうが合うまいが、うまいこと売っちゃった方の勝ちなんだろうけど。


 ティアナの方は、モダンリビングの発想でクルマのインテリアをデザインしました、という内容だったと思う。
 そういうメッセージを感覚的に補強するために、名建築を映像の一部に組み込んだのだろう。


 モダンリビングってそもそもナンジャラホイ、だし、クルマのインテリアをこれみよがしにスカしたデザインにしても、窓の外を流れていく風景がパチンコ屋やイトーヨーカドーやメルヘンチックなファンシー一戸建てでは台無しじゃん、と思う。
 銀閣寺の隣に巨大なラブホテルが建っていたら、どうか、というようなことである。
 が、CMでは、もちろん、そんな問題は扱わない。


 どちらのCMも、名建築に商品のイメージを引っ張り上げてもらう作戦、という点では共通している。ま、風船おじさんみたいなものですね。


 ところで、ああいうCMに出てくる名建築の家って、誰か住んでいるのだろうか。
 普段は家族が住んでいて、撮影用に掃除してセッティングして、ということも考えられるけれども、少なくとも映像からは人の住んでいるにおいがしない。


 住んでいた一家が何かの事情で売って、政府やどこかの財団が「名建築」として公開しているのかもしれない。維持費や相続税も巨額だろうから、大いに考えられる。
 もしそうなら、見学に来る建築家やデザイナーには勉強になるのだろうが、一方で、もはや人が住んでいない住居からは、人が住むところとしての大切な何かが抜け落ちるようにも思う。
 住みかとしての不都合な部分は見えないから、見学者的視点でいい部分ばかりが賞賛される。そういう建物は、「名建築の抜け殻」ではないか、とも思うのだ。


 私は、バルセロナにあるガウディの「カサ・ミラ」が現在も集合住宅として使われているかどうかに、ちょっと興味がある。


・ガウディのカサ・ミラ


 有名ではあるが、ウネウネ・グニョグニョとしていて、気色悪い。名建築なのかどうかはわからない。


 もし今でも人が住んでいるのなら、こういうところに住むのって、どういうものなのか、訊いてみたい。
 外に洗濯物干したり、できるのか。


 地元の不動産屋の店先に、普通に「貸しマンション 2LDK 築94年 ペット可」と張り紙が出ていたらおかしいな。バルセロナの不動産屋が張り紙するのかどうかは知らないけど。


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