ざこば師匠

THE ざこば(DVD付)

THE ざこば(DVD付)


 この人の魅力はどう紹介すればいいのか……。


 関西圏ではとてもメジャーな人だと思うが、全国ネットのテレビにあまり出演しないこともあり、知らない方も多いかもしれない。


 まだ桂朝丸と言っていた頃、ウィークエンダーという番組で「えらいことやがな〜」ともの凄い勢いのニュース紹介のようなことをやっていたから、ある程度、年のいった方は覚えているかもしれない。


 この人の落語はいい。いや、素晴らしい。


 上に紹介したのは、CDとDVDのカップリング。2席聞けて、2席見られて、Amazoneなら、2,549円ぽっきり。
 ――全然ぽっきりではないが、とにかくオススメである。騙されたと思って、聴いてほしい、見てほしい。ただし、騙されても一切責任はとらない。


 噛むわ、どもるわ、マクラでとっさに次の話題が出てこないわ、あちこちデコボコだらけなのだが、そんなことお構いなしに噺を進める。それが何ともおかしく、何ともよいのだ。


「おれはこれでいいんだ!」、「これがいいんだ!」というものを持っている人の強さというか、何というか。


 CDのほうの「みかんや」では、最後のほう、噺のおかしさに自分で笑ってしまっている。
 並みの落語家だったら馬鹿にされるのかもしれないが、ざこば師匠の場合は、それがまたおかしくて、いいのだ。


 これはもう、その人自身の魅力だろう。
 落語のほうで「フラ」というが、演出やテクニックではなく、その人自身が持っている何とも言えないおかしさ。それが噺ににじみ出るどころか、全開でこっちにぶつかってくるから、たまらない。


 漏れ聞くところでは、ざこば師匠、異常なほどに涙もろく、怒りっぽいという。
 正直、まわりにいたら、かなり厄介なオッサンなのではないか、と思う。


 しかし、そんな人となりが、落語になると素晴らしい魅力になる。


 あ、長くなりそうなので、今日は覚悟してください。


 ざこば師匠は小学生のときに両親が離婚し、引き取った父親がすぐに亡くなっている。中学卒業後、桂米朝に入門。ざこば師匠にとって、米朝師匠はほとんど親代わりのような存在ではないかと思う。


 米朝師匠は、内弟子時代のざこば師匠(十代後半だろう)について、こんな思い出話を語っている。


 雨降りの日、ざこばに自転車で駅まで迎えに来て貰て走ってたら、途中に用水路があってね、そこで犬が流されてるんや。ウォーン、ウォーンちゅうて小ちゃい犬が鳴いてるねん。増水してる所へはまったんやな。「助けたりましょか?」「おう、助けたれ。けど、助ける前に、わしを先に送ってくれ」
 ざこばは家から現場に戻ると、裸になって用水路へ入った。ようよう子犬を抱えて水から上がったら、野犬が仰山ぐるりを取り囲んでるねん。皆心配して集まってたんやな。そら怖いで。一所懸命、犬に向かって言うたそうや。「いじめてるのとちゃうで。俺が助けたんやで」「お前ら見てたやろ。悪いけど、俺、自転車で戻らなあかんのや。噛まんといてくれな」と言うたら、犬がスーッと道を空けたそうな。
 私は「そんなアホな」と言うたが、時間が経つうちに「そういうこともあるかもしれんなぁ」と思うようになってきました。


(「米朝よもやま噺」、桂米朝著、朝日新聞社より)


 裸で子犬を抱えて震えながら、必死に野犬に説明しているざこば師匠を想像すると、何ともおかしい。


 70年安保の時代には、永六輔にけしかけられて、新宿の西口で反戦フォーク集会ならぬ反戦落語会をやったことがあるという(本人に反戦の意志があったかどうかはわからぬが)。


 こちらは、本人談。


(……)ズーッと喋ってると、フーテンはもちろんやけど、普通の通行人も立ち止まって聞いてくれるんですワ。ところが三十分どころか、まだ半分もやってへん所でパトカーがきよったんです。誰が通報しよったんか知らんけど、今度はフーテンやなくて僕を“狙い撃ち”ですワ。
「そこで落語をしてる男、止めなさい!」
 と言われても、東京の初舞台やし、せっかくウケてるのに……何とかならんやろか? 思うてパトカーの方へ叫んだんです。
「もうちょい喋ったらオチがつくねん! そやから、このまま喋り続けさせて〜な! それで止めるから、頼むワ!!」
 フーテンを中心にした客も、「喋らせてやれヨ!」、「行け! 行け!」と大声援や。それに後押しされて、また喋り出すと、今度は――、
「それ以上続けると。逮捕するぞ!!」と警官も本気みたいや。


(「桂ざこばのざっこばらん」、桂ざこば著、KKベストセラーズより)


 落語をやって、警察から強制排除を食らったことがあるのは、落語の長い歴史の中でも、ざこば師匠くらいではないか。
「そこで落語をしてる男、止めなさい!」は、日本の警察史に残すべき、名セリフである。


 ざこば師匠、東京が嫌いで、あまり東京では落語をやらないらしい。
 生で見るには関西に行かねばならないが、それもさすがにちょっと……。いや、行くべきか……。


米朝よもやま噺

米朝よもやま噺

桂ざこばのざっこばらん

桂ざこばのざっこばらん

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「今日の嘘八百」


嘘七百十四 社会保険庁から年金関連のハガキが来たので、シールをはがしてみたら、「ハズレ」と書いてありました。