イタい単純化

人間はつい単純化してしまいがちな生き物であって、おそらくは複雑なものを複雑なまま捉えるということがとても難しいからだろう。 学問方面の「理論」というのもおそらくは単純化のためである(というのまとめ方も単純化だ)。理論によって単純化することに…

ラテンアメリカ小説遍歴 その3

昨年末以来、ラテンアメリカ小説を読み続けてきた。その報告、第三弾。 TTT: トラのトリオのトラウマトロジー (セルバンテス賞コレクション) 作者:ギジェルモ・カブレラ インファンテ 現代企画室 Amazon キューバの作家、カブレラ・インファンテの、革命前の…

梅雨とは何か

東京は梅雨入りして、雨が降ったり、もやっと曇ったりする日が続いている。 梅雨といえば雨、雨といえば梅雨という印象だが、データではどうだろう。気象庁の東京のグラフを見てみた(下記)。 オレンジ色は昨年(2021年)、薄い青は平年値(年平均)である…

街の陰と陽

先週の日曜日に武蔵小金井に行った。 待ち合わせまで時間があったので、あたりをぶらついたら、南口に大型のショッピングモールがいくつも立ち並んでいて驚いた。いわゆる駅前再開発というやつである。 おれは三十年ほど前に半年ほど武蔵小金井で働いたこと…

とりあえず食ってみたヤツ

朝、パスタにバジルソースをかけたものを食べて、ふと「バジルをこうやってソースにできると気づいたヤツが昔いたんだなー」と思った。 まあ、料理方法というのはどれもそうで、最初にやってみたヤツというのがいたわけである。バジルソースについて書いたけ…

日本人野球選手のニュース

先週書いたように、最近は野球の試合を見ていない。 それでも日本人野球選手がMLBでこうだった、というニュースを見かけはする。今なら大谷翔平のニュースが多い。 あれがどうもモヤモヤとする。大谷が何回を投げて失点いくつだった、三振をいくつ奪った、打…

試合の長さ

ここ何年か、ほとんど野球の試合を見ていない。高校野球を何試合か見たかな。そのくらいである。 ヨーロッパのサッカーが面白くて、そっちが中心になったということもあるが、もうひとつには試合の長さがある。 日本のプロ野球だと2時間半くらいが普通だろう…

あの人は今

派出所の前にはよく指名手配犯の写真が貼ってある。みんな割に凡庸というか、あまり目を引かない顔をしているなかで、いつもこの人だけが気を引く。桐島聡である。 名前を知らなくても、写真で記憶している人は多いんじゃなかろうか。 なぜに印象に残るかと…

痒みの知覚

おれは体質的にアトピーで、子供の頃からカイカイカイカイと痒がって生きてきた。 アトピーのひどいときはこっちが痒くなってボリボリ、それが治まるとあっちが痒くなってボリボリ、それが治まるとそっちが痒くなってボリボリ、とまあ、きりがない。 面白い…

装置としての宗教

いきなり何だが、キリスト教の教会というのは装置としてなかなかよくできていると思うのである。 まず陰影がはっきりしていて、暗い空間に窓からだけ光がつよく差し込む。啓示とまでは言わないが、天あるいは神からの恩寵なり働きかけが光を通じて感じられる…

ラテンアメリカ小説遍歴 その2

昨年末以来、ラテンアメリカの小説を読み続けている。1月末に読んだ本を紹介したが、その後に読んだ本を簡単に紹介したい。 前回の記事はこちら。 yinamoto.hatenablog.com まずはロベルト・ボラーニョの「野生の探偵たち」。 野生の探偵たち〈上〉 (エクス…

スペクタクルな法華経

「サンスクリット原典現代語訳 法華経」を読んだ。 サンスクリット原典現代語訳 法華経(上) 作者:植木 雅俊 岩波書店 Amazon サンスクリット原典現代語訳 法華経(下) 作者:植木 雅俊 岩波書店 Amazon 「最高の経典」だという評価は聞いていて、どんなもんだ…

ラテンアメリカの作家と移住

昨年末以来、ラテンアメリカの小説をあれやこれやと読み続けている。 作家たちのプロフィールを読むと、いずれも国外移住がとても多いことに気づく。たとえば、ガルシア=マルケスの場合: コロンビア(国内を転々)→イタリア(ローマ)→フランス(パリ)→コ…

百年の孤独 神話、伝説、リアリズム

ガルシア=マルケスの「百年の孤独」を読んだ。 ラテンアメリカ文学を代表する小説であり、世界的大ベストセラーでもあって、「ソーセージのように売れた」んだとか。スペイン語で書かれた本のなかでは、聖書を別にすれば、最も出回った本とも聞く。 おれが…

陰謀論にとらわれる理由

陰謀論にとらわれる人というのがいて、まわりから見ると「なんで?」と思うのだが、本人はいたって真剣なようである。 たとえば、アメリカではトランプ前大統領は闇の政府(ディープ・ステート)と戦っていたのだと信じる人たちがいるし、コロナは製薬会社の…

オリンピックと偽善

東京オリンピックも北京オリンピックも全く見なかった。その前の大会も、どこだったか忘れてしまったが、見なかった。最後に見たのがどの大会の競技だったか、覚えていない。 おそらく競技を見れば面白く、興奮したのかもしれないが、オリンピックの「平和の…

物語の宗教

少し前に、マーティン・スコセッシ監督の映画「沈黙」を見た。 沈黙 -サイレンス-(字幕版) アンドリュー・ガーフィールド Amazon 江戸時代初期、キリスト教が禁制になった日本に命懸けで潜入する宣教師の話である。捕まった宣教師は、日本人キリシタンを拷問…

ジャマイカの存在感

世界には存在感のある国というのがあって、大国はもちろんだが、そうではないのに妙に光る国がある。 ジャマイカもそのひとつだと思う。 おれくらいの年齢の洋楽好きだと、レゲエやダンスホールが思い浮かぶ。ジミー・クリフやボブ・マーレーのようなレジェ…

「コレラの時代の愛」 エピソードを塗り込める

ガルシア=マルケスの小説「コレラの時代の愛」を読んだ。 コレラの時代の愛 作者:ガブリエル・ガルシア=マルケス 新潮社 Amazon 若い頃の激しい恋心を50年にわたって抱き続けた男と、抱き続けられた女、その夫の3人を中心にした物語だ。面白い。 ガルシア=…

酒と小説

ラテンアメリカの小説の旅は続いていて、今はガルシア=マルケスの「コレラの時代の愛」を読んでいる。 ひとつ発見したのだが、小説をその土地の酒を飲みながら読むと、ムードが出て楽しい。 きっかけは、メキシコを舞台にしたボラーニョの「野生の探偵たち…

ボラーニョ「野生の探偵たち」 人生の織物

相変わらずラテンアメリカの小説を読み続けている。ロベルト・ボラーニョの「野生の探偵たち」を読み終えた。 野生の探偵たち〈上〉 (エクス・リブリス) 作者:ロベルト ボラーニョ 白水社 Amazon 野生の探偵たち〈下〉 (エクス・リブリス) 作者:ロベルト ボ…

ラテンアメリカ小説遍歴

しばらく小説はあまり読んでいなかったのだが、年末年始にガルシア・マルケスの本を何冊か読んだら、自分のなかでラテンアメリカ小説ブームとなってしまった。 最初に、読みさしになっていたガルシア・マルケスの「予告された殺人の記録」を読んだ。前に読み…

平八になりたい

ひさしぶりに黒澤明監督の「七人の侍」を見た。もう何度も見ているし、ちょっと飽きているところもあるのだけれど、それでも見ると引き込まれるし、面白いと思う。 youtu.be 七人の侍の誰になりたいか、という質問をすると、その人の性格や目指しているとこ…

「笑う故郷」 悪夢の映画

スペイン/アルゼンチン合作映画「笑う故郷」を見た。面白すぎる。 www.amazon.co.jp この年末年始、ガルシア・マルケスの小説を読んだのをきっかけに、ラテンアメリカ文学づいている。その余波というべきか、「映画もスペイン語以外、聞きたくない!」(小…

大きな話と小さな話

アマゾンのプライムビデオで映画「スリーピング・ボイス 沈黙の叫び」を見た。2011年のスペイン映画である。 www.amazon.co.jp 検索でたまたま見つけたのだが、強烈な映画であった。 YouTubeに予告編があった。 youtu.be スペイン内戦終結直後、フランコが体…

腸内と土壌と草花

のっけから汚い話で恐縮だが、おれは排便をした後に自分のビッグベン=ウンコを見る。どのくらい出たかと色を確認する。健康状態のチェックというより、単に興味があるからだ。 おれの場合、肉の消化があまり得意ではないらしく、少し多めに肉を食べると、ビ…

街の声

日本のテレビニュース番組にはいろいろと不思議なコンテンツがあって、「街の声を聞いてみました」という例のアレもそのひとつだ。 たとえば政治方面で何かがあるとインタビューアーが街に出ていって、道ゆく人にどう思うか聞く。そんなに長い時間を割くこと…

通念と仏説

初期仏教の本を読んでると、当時のインド人にとって、輪廻転生というのは当たり前の通念、重い枷だったんだなーと思う(今でもそうなのではないかと思う)。 輪廻転生というのは生き物が死ぬと別の生き物に生まれ変わるという考え方で、人間が人間に生まれ変…

慈悲の根っこ

ここ一年半ほど、初期仏教についての本をよく読んでいる。もっぱら、昭和の泰斗、中村元の著書や訳書である。中村先生の本は平易に書かれたものが多く、おれのような無学者にもとっつきやすい。 仏教の重要な心の持ち方に慈悲がある。「悲」という漢字が入っ…

エルミタージュ幻想 奇跡のような90分ワンカット

アマゾンのPrime Videoで映画「エルミタージュ幻想」を見た。2002年のロシア映画である。 youtu.be 実にとんでもない映画だ。ペテルブルグのエルミタージュ美術館を映画監督(カメラの視点)と19世紀(?)のフランスの外交官がさまよい歩き、ホールからホー…